株式会社 栄養・病理学研究所

Institute of Nutrion & Pathology Inc.

株式会社 栄養・病理学研究所

トップトピックス「持続的なリポ多糖及び酪酸の歯茎内投与がマウスの異常行動を誘発し,サイトカイン濃度を変化させる」

「持続的なリポ多糖及び酪酸の歯茎内投与がマウスの異常行動を誘発し,サイトカイン濃度を変化させる」

雑誌名:Journal of Neuroinflammation
ジャンル:原著論文(査読あり)
掲載年:2020年
原題:Consecutive intra-gingival injections of lipopolysaccharide and butyric acid to mice induce abnormal behavior and changes in cytokine concentrations
研究機関:株式会社栄養・病理学研究所(筆頭著者・塚原,第三著者・川瀬,第四著者・中村),茨城大学農学部,東京農工大学大学院連合農学研究科,日本大学歯学部
弊社職員の役割:研究企画,飼育管理,被験物質歯茎内投与,マウス行動解析(オープンフィールド,尾懸垂,強制水泳試験),剖検,病理組織学的検査,mRNA発現解析,炎症性サイトカイン濃度測定(ビーズアレイ),神経伝達物質濃度一斉分析(LC-MS/MS),血漿内・脳内短鎖脂肪酸濃度測定(GC-MS),結果考察論文執筆

2020年11月にJournal of Neuroinflammation誌に掲載されました「持続的なリポ多糖及び酪酸の歯茎内投与がマウスの異常行動を誘発し,サイトカイン濃度を変化させる」について解説いたします。

内容解説:ヒトの歯周病は成人のおよそ80%が罹患しているとも言われている慢性の炎症性疾患です。歯周病は他の全身性の慢性疾患(糖尿病,AIDS,アルツハイマー性認知症など)の悪化とも関連していると言われています。また過去には,マウスへ主な歯周病起因菌であるジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)を感染させたところ異常行動が認められたとの報告があります。
ジンジバリス菌は歯周組織内で炎症の原因物質であるリポ多糖(LPS)や,酪酸を生産していることが知られていることから,我々の研究グループはマウス行動異常にこれらの代謝物が関与している可能性を考え,歯周組織へ継続してLPSと酪酸を投与し,行動異常が起こるのか,また免疫系に異常が起こるのかについて検討を行いました。
28匹のオスマウスにオープンフィールド試験を実施し,その結果をもとに4群に群れわけを行いました。1群には滅菌生理食塩水,2群にはジンジバリス菌由来LPS,3群には酪酸,4群にはLPS及び酪酸を歯周組織内へ32日間投与しました。投与期間中,投与開始後14日と21日に上記オープンフィールド試験を行い,同一フィールドに対する“慣れ”を数値化しました。その結果,LPS及び酪酸を投与することで,フィールドに対する慣れが生じず,行動の異常が認められました。また,投与終了時に検査したところ,LPS投与によって海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)発現の低下,脳内アセチルコリンの高値化などが認められ,LPS及び酪酸の投与で単球走化性因子(MCP-1)の顕著な低下が認められました。
以上のことから,ジンジバリス菌が生産するLPSや酪酸が歯周組織から吸収されて異常行動を引き起こすことが示唆され,全身の免疫にも変化を与えていることが確認できました。